恐竜の化石から初めて色素を発見したという新研究が発表された。中国科学院・古脊椎動物古人類研究所(IVPP)のフーチェン・ジャン氏率いる研究チームによると、今回の発見によって先史時代の色という新たな世界が広がりそうだ。恐竜の行動における色の役割が解明され、体色を初めて正確に再現できるようになるという。 研究チームは、中国北東部から出土した鳥類と恐竜の化石の羽毛や繊維状の構造内で化石化したメラノソーム(色素を含む細胞内小器官)を特定した。メラノソームは人間の毛髪1本の断面に100個収まるほどのナノサイズの器官で、現生鳥類にも存在する。2008年には初めて鳥類化石から発見された。

 2008年、イェール大学大学院生のジェイコブ・ビンザー氏のチームは、走査型電子顕微鏡で1億年前の羽毛にある濃色の斑紋からメラノソームを発見した。2009年には別の羽毛化石の表面で、積層するメラノソームによって顕微鏡光が屈折することを見いだし、生存中の羽色は虹色だったと推測した。

 太古の恐竜時代化石でもメラノソームは残存可能と証明されたが、恐竜化石の色素は誰も見つけられなかった。また、メラノソームの形状や密度から色を推測した研究者もいなかった。

 1億年前の鳥類化石のメラノソームは2008年に公表されていた。今月のレポートによると、IVPPの研究チームは中国、遼寧省で発見された羽毛のある鳥類と羽毛恐竜の詳細を走査型電子顕微鏡で調べていた。遼寧省は、1億3100万~1億2000万年前の動物化石が完全に近い保存状態で多数出土する地として有名だ。

 その後、IVPPチームは恐竜で初めてメラノソームを発見して突破口を開くことになる。共同研究者でイギリスのブリストル大学の古生物学者マイク・ベントン氏は、「ビンザー氏の論文を読んだとき、“ちょっと、これ見て。すごいな”と言ってたんだ。それからすぐに、僕たちもメラノソームを発見した」と話す。

 アメリカ、ワシントンD.C.にあるスミソニアン研究所国立自然史博物館の古生物学者ハンス・ディーター・スーズ氏は、「Nature」誌オンライン版で1月27日に発表された論文について、「彼らの研究は科学的根拠に基づいている。メラノソームの化石化した残余物であるのは確かだ」とメールでコメントを寄せた。

 メラノソームはメラニン色素を内包しているため、羽毛化石のメラノソーム発見はこれまで推測にすぎなかった先史時代の色について新たな知見をもたらした。

 現生鳥類のメラニン色素は、黒やグレイの羽に関連するユーメラニンと、赤褐色から黄色い羽で見つかるフェオメラニンの2種類がある。

 研究の結果、この2種類のメラノソームが見つかったことから、「色やそのパターンを再現するための最初の実験的証拠となる」とジャン氏のチームは記述している。

 例えば、1億2500万年前の古鳥類であるコンフウシウソルニス(Confuciusornis)の場合、1本の羽毛で黒から茶まで色の変化があるとわかった。また、七面鳥ほどの大きさの肉食の羽毛恐竜シノサウロプテリクス(Sinosauropteryx)の尾の濃色部分には、「フェオメラノソームがぎっしり詰まっていた」とベントン氏は述べている。したがって、尾は栗色から赤褐色のトーンの縞模様だったのではないかと研究チームは推測している。

 メリーランド大学の古生物学者トーマス・ホルツ氏は、「恐竜にも同サイズと形状のメラノソームがあるとわかった場合、現生鳥類と同色になると推測するのは合理的だ」と話す。

 だが、メラノソームはさまざまな色を発現するが種類には限りがある。フラミンゴのピンク色やカナリアの黄色のような明色の多くは、鳥が摂取する食物に関係している。 スミソニアンのスーズ氏は、「色の単純な推測は慎重にすべきだろう。多くの現生動物は死亡後に色素が化学的に分解されて色がすぐに変化するからだ」と言う。

 拙速は避けるべきだが、今回のメラノソーム発見は、先史時代の色の役割を解明する上で新たな可能性を開くものだろう。例えば、恐竜の羽毛の色が判明すれば、色のパターンがカムフラージュやクジャクのような求愛行動に役立っていたのか、現生鳥類に多く見られるように雌雄で異なる体色の可能性などを解明できるかもしれない。

 化石羽毛だけでなく、皮膚や体毛などメラニンの豊富な組織でもメラノソームやメラニンが発見されれば、科学者たちは初めて、絶滅動物の色を推測しなくて済むようになるだろう。

 共同研究者でIVPP所長のジョンホア・ジョウ氏は、「従来、体色はあくまで推測で再現していた過ぎなかった。これからは、古代世界の動物の色を科学的に再現できるだろう」と話す。

 メリーランド大学のホルツ氏は、「遼寧省の恐竜やトカゲ、哺乳類に至るまで、初の実証的な想像図が楽しみとなる。でも、古生物のイラストレーターにはちょっと申し訳ない気もする。彼らは比較的自由に恐竜の色を描いてきたからね。恐竜の色という概念はアートの世界から抜け出してサイエンスの領域に移ったと言えるだろう」と語っている。